先日、後輩の結婚式にお呼ばれした際、
披露宴で同じテーブルに座った初対面の男性から「もしかして◯◯さんですか?」と声をかけられました
名前のカードを観てピンときたらしく、彼はもう10数年前に撮っていた私の写真をたくさん覚えていると楽しそうに話してくれました
本当にビックリしました
「今も撮っているんですか?」と聞かれて、モゴモゴと撮っているような撮っていないような曖昧な返事をしたものの まぁ、実際は撮ってないわけで
もう私の感性は一度死んでしまっていて、それを取り返す努力を怠っているのです
そうやって写真から遠ざかった割に「ポートレートのうまくなる撮り方」とか
「おすすめ単焦点レンズ10選」みたいな記事を見かけると青筋を立ててしまうのです
仕事のこととか家電のこととか音楽の趣味のこととか他人がどう考えていようが構わないと思って生きているのですが、どうやら私は写真のことになるとムキになるようなのです
ひとくちに写真と言っても、撮ることなのか観ることなのか
はたまたカメラを集めることが好きな人もいるし、レタッチの雄も居て
鉄道写真があったり、星景写真であったり、私写真だったり、合成写真だったりと
まぁ、もう幅が広すぎてひとくくりにできる話ではなく
今回は私が志していたある種の写真の話です
記録的なそれではなく、美しい風景を残すわけでもなく、もう少し内面的なアジェ*1的なそれで
承認欲求を満たすための「写真」の話ではないので、そういう写真が好きな人は曲がれ右していただければと
必要とされる写真を撮るのはカメラマンの仕事
これは揶揄しているわけでなく、求められているものの違いで
写真家の仕事は「偶然を捕まえること」だと思っていて
多くの写真は「撮らされている」んだと思うんですよ
例えば面白い建築とか、一面の花畑とか、おしゃれなカフェとかで撮った写真がそれっぽく写るとして、
それは撮った側じゃなくて、撮らせた側の勝ちみたいなもんなんだろうと
どちらかというと建築家や造園家やインテリアコーディネーターの勝ち
「良い」と思えることが感性なのだとすると
建築家や造園家やインテリアコーディネーターが良いと思ったものを撮らされているので、これは他の人の感性と自分の感性がぶつかった写真になるわけなんですよね
一方で写真家と呼ばれる人たちは、人の感性よりも自分の感性の割合が極めて高い人たちなんじゃないかと思っていて
願わくば自分もそうでありたいと
なんでもないものを「良い」と思えるように心と眼を保つようなことをしてきたつもりで
たくさんの「良い」を捕まえられれば、それが写真家になっていくんだと思っていたわけです
そうそう、たまに見かけるしカメラをぶら下げた若い子たちが数珠つなぎになってる時、「良い」と思ってカメラを構えると、後ろの子たちも一斉にカメラを構えるのを見かけるんですが
あれは「感性泥棒」です
写真を撮りに行くときは1人のほうが良いです
まぁそんなこんなで、とある写真家集団に入れてもらうことになりました
表現の場が広がるし、お金ももらえるなんて!と浮足立ってみたものの
結果、撮ることになったのは広告写真でした
広告写真ってものすごい制限があるんですよ
指一本写っただけで、その人に承諾書貰わないといけないし、人の家が写るなんてもってのほかで、壁すらもダメ
だんだん撮っていくうちに、おかしくなってきました
あ、これは車が写り込んじゃうから撮るのをやめよう…
それは許可が必要だし、控えておこう…
コピー文言を入れるために左上に必ず余白を作るようになりました
写真家になりたかったのに
自分の「良い」じゃなくて、誰かの「良い」のためにシャッターを押す
徐々に
でも確実に失っていく
どうにか取り戻そうと、かつて一番大事な写真を撮った場所へもう一度戻って
同じ「良い」を捕まえようとしたのですが、ファインダーに映ったのはただの曇った世界でした
その日、私の感性は死にました
不思議なもので、それを自覚した瞬間に気持ちが急激に薄れてしまって
毎日カバンにカメラを詰め込むこともなくなって
多分、自分の好きな気持ちは、それだけを信じてやり続けないと
簡単に死んでしまうんだと思います
10数年前の私を知っていた彼は、感性が死んだ後の私の写真は観ていないはずで
今の自分を観られるのが恥ずかしいやら悔しやらで
少なくとも、こうやって家でウイスキー飲んで酔っ払って武勇伝みたいな戯言を書いているだけでは何も変わらないし
感性を取り戻すための教科書なんてどこにもないのだけれども
どうやら写真が一番のコアになっているらしい私の感性は、他のことでは代わりが効かないみたいだし
なんとか這い上がってやろうと思うので
誰かハッセルブラッドのX1D買うための200万円ください
(現物でもいいです)
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*1:ウジェーヌ・アジェ フランスの写真家で近代写真家の父