4歳から中学校まで同じ学校に通ったM君は、今風に言うとジェンダーレスな少年で、
たいてい口調は女の子だし、たまにスカートはいたりしていた。
今みたいに多少の情報や理解もない時代だったし、とくに同性からはまぁまぁいじめられていたような気がする。
M君はとにかくオシャレだった。
まだ世間も空も狭かったあの頃、M君からはいつもアートの匂いがした。
そんなM君がふいに「キミ、これ好きそうな気がしたからあげるよ」とくれたのが、当時デビューしたての中村一義のサンプラーだった。
タワレコで配っていた8cmのCDだ。
オザケンとかカジヒデキとか聴いていたような当時。
最初に中村一義の唄を聴いた時は、正直よくわからなかった。
高い声と何言っているんだかサッパリわかんない歌詞で。
なんとなく買った『金字塔』も1回聴いてCDラックに放り込んだ。
昔からレンタルしたCDは繰り返し聴くのに、CDを買うと満足して聴かなくなる癖がある。
それから1ヶ月くらい経った後、なんのきっかけか思い出せないけど
『金字塔』を聴きなおしてみた。
後頭部を鈍器で殴られるようなカルチャーショックを受けたのを覚えている。
今まで聴いたことのない種類の唄なんだけど、ずっと心の奥にある音楽への渇望みたいなものが湧き出てきて、それからもう毎日何度も何度も繰り返し聴いた。
高校時代は勉強と部活とバイトを繰り返す単調な日々で、将来が見え隠れしたりする中で中村一義のシングルの発売日だけが楽しみだった。
大きな坂を登った先にある新星堂のガラスに貼ってある新作予約の1色刷りの紙切れを毎日眺めて過ごしていた。
18歳になった頃には、ジャケット写真を撮った佐内正史の存在に気がついて、写真を始めた。
あんな写真が撮りたくて、未成年だし吸えないハイライトを買ってきて怒られたりもした。
大学に入り、仲良くなった親友たちはみんな音楽が好きだった。
お互い貧乏で居酒屋ではバターコーンだけを頼んでいたような毎日だったけど、よく一緒にライブハウスへいった。
中村一義はライブをやらなかった。
自分が4人いないとライブをやらないだとか言っていたような気がする。
そんな彼が初めてライブをするという。
だけどROCK IN JAPAN FES.2000は幻になった。
だから翌年のROCK IN JAPAN FES.2001は伝説になった。
2002年は初めてのワンマンツアー博愛博だった。
代々木公園に停まっている赤いミニクーパーを尻目に、開演前に観客の立場だというのに緊張と期待に溢れてしまい、みんなに迷惑かけたりした。
最初の「犬と猫」で全身の細胞が立ち上がって、頬には自然と涙が流れていた。
あの時、博愛博に一緒に行った人と結婚をした。
結婚式では、中村一義の唄に載せて写真のスライドショーを流した。
彼の唄みたいな写真を撮りたかった。
先輩の送別会で行ったカラオケで、「永遠なるもの」を唄った。
「こんな風に唄う人はじめて会ったよ。ありがとうな。」って泣かれた。
まだ中村一義のジャケットに使ってもらえるような写真は撮れていないし
あの頃よりずっと歳を取って保守的になって。
M君からもらった1枚のCDは、薔薇色かどうかはわからないけれど、大げさじゃなくて私の人生を変えてくれた。
今もアイロンをかけながら「世界は変わる」を聴いている。
#中村一義と私
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