CES2018新製品や新技術が発表レポートがいろんな媒体で流れてきて、ワクワクしています
そんなCESの記事の中で、iriver社が韓国で Astell&Kernのサブブランド(かな?)Astell & ASPRを出すことで賛否両論のようです
<CES>iriverの新ブランド「Astell & ASPR」登場、KANNやMichelleの限定モデルも展開 - PHILE WEB
Astell&Kern(ステル アンド ケルン)といえば、ハイレゾ高級デジタルオーディオプレーヤーのパイオニアとでもいうような存在
2012年に発表されたAK100の値段を観てビックリした記憶があります
私が好きな楽曲とはあまり相性が良くないので使っていませんが、形かっこいいですよね、鋭利で
そんな Astell&Kernですが、ネット上ではネガティブな意見を目にすることが多々あります
- 値段が下がりすぎるのが気に食わない
- 製品サポートが悪いのが気に食わない
- 限定カラバリ商法が気に食わない
- 提灯記事が量産されているのが気に食わない
おおよそ、こんな声があがっているのかなぁと思います(もちろんポジティブな意見もたくさんありますよ)
さて、この記事の内容は、頻繁に見かけるAstell&Kern商品の販売方法の是非に対し
- Astell&Kernの価格はおかしくない
- 国内の代理店の販促方法については、一部あまり上品とは言えず不信があるけど、おおむねアリ
です
なんでこんなに叩かれるのかなと疑問だったので、自分なりにネガティブな意見に対して考えてみました
製品自体の良し悪しには一切触れていません
ポータブルオーディオの趣味は非常にニッチな世界である
先ず日本のポータブルオーディオ趣味の世界の規模感から観てみます
携帯オーディオプレーヤーの国内出荷台数は約220万台程度 400億円くらいの市場です
iPodが下火(スマホに取って代わられる)ようになってから市場全体は毎年縮小傾向です
この中でさらにポータブルオーディオの「趣味領域」というのはものスゴいニッチです
どのくらいニッチか、 2017年12月度のBCNランキングを調べてみました
ちなみにBCNのデータにe☆イヤホン入ってるのか突っ込みがありそうですが*1タイムマシンの売上高は62億円くらいで、DAPがどのくらいの比率かはわかりませんし、たいした影響しかなさそうなのでここでは無視します
2017年12月 デジタルオーディオプレーヤー メーカー別国内シェア(BCN調べ)
先ずはメーカー別シェアです
1位は言わずもがなソニーで6割以上を占めています
次にポータブルオーディオファン達が買うハイレゾDAPの有名どころをみると
iriver:8位/26社 数量シェア:0.15% 金額シェア:0.74%
オンキョーパイオニア:4位/26社 数量シェア:2.15% 金額シェア:3.42%
乱暴ですが、単純に国内出荷台数とこのシェア率(12月単月だけど)を掛け算すると
iriverは年間3,300台 オンパイは47,300台です
これしかないんすよ…
2017年12月 デジタルオーディオプレーヤー 機種別国内シェア(BCN調べ)
続いて、機種別で調べてみるとこんな感じです
1位:SONY Walkman NW-S313 数量シェア:13.19% 金額シェア:8.32%
安いは正義!なのか、容量も小さいNW-S313が1位ですね
WalkmanのAシリーズは、ポータブルオーディオマニア向けとは思いませんので、次に出てくるハイレゾ対応機がコチラ
20位:SONY Walkman NW-ZX300 数量シェア:0.9% 金額シェア:3.19%
こんなものでしょうね
ではAstell&Kernはどうかなと調べてみると
47位:iriver AK70Ⅱ 数量シェア:0.06% 金額シェア:0.26%*2
わお!たった0.06%です 1,000人に1人も買ってません
先程の年間出荷台数で掛け算すると、わずか1,320台です
BCNのデータに入っていないECとかも山ほどあると思うので、この計算は流石に乱暴ですが、そこまでかけ離れた数字でもないんじゃないかと仮定します
ざっくりですが、ポータブルオーディオファンならみんな知っているDAPの市場規模が実は小さいということはこのデータでご理解いただけましたでしょうか
とてもニッチなジャンルの話をしています
なので、本記事ではこの辺の話をしているポータブルオーディオファンを「マニア」と呼称してみます
Astell&Kern製品の価格がモデル末期に下がるのはこんなことが理由ではないか
Astell&Kernの商品は次第に値下がりし半額程度に投げ売りされるのがムカつく!という意見に対して、なぜ値下がりするのかを考えてみます
商品の値段が下がっていくことが「リセールバリューが下がるから困る!」という意見はもっともだと思いますが
Astell&Kern、iriver、代理店のアユートだって商売ですから、販売計画があって予定利益があるわけですから、完売するまでにに値引きだってするでしょう
どうやって価格が変動しているかといえば、中学高校くらいでみんな習ったであろう「神の見えざる手」、需要と供給でしょう
市場原理を考えれば、2017年にNintendo Switchが販売当初売価よりも高い価格で売られていたのも当然だし*3この冬、キャベツや白菜の値段が高いのも当たり前です
多くの家電製品もまた価格が変動しています
カメラや洗濯機の価格変動を価格.comで見てみてはどうでしょうか
発売当初価格とモデルチェンジ前後の価格を見比べれば一目瞭然です
同じポータブルオーディオの世界でゼンハイザーのIE800を例に観ると
同商品は2015年の5月に価格改定があり、約97,000円くらいで販売されていたと思います
これが新製品が販売された今、いくらかと言うと78,000円くらいなわけです
さすがに半額にはなっていませんが、モデルチェンジのタイミングでやはり価格が下がっています
同じようなジャンルでも当たり前に起こっている値引なのに、何故Astell&Kernだけが批判されるのでしょうか
おおかた、声の大きいマニアに同調しているだけなのではないかと思います
最初に言い出した声の大きい誰かが、値引は悪だと思っている聖人だったのではないでしょうか
「価値」が下がったから値段が下がっているのではないか
さて、本題に戻って
私はAstell&Kernの商品の処分時の値引率を他の家電製品と比べても極端に高いとは思いませんが、Walkmanや他のハイレゾDAP(オンパイ除く)に比べると確かに値引率が高いように見えます
Astell&KernのDAPの値段が下がるのは、代理店や販売店側の「はやく在庫を入れ替えたい」という目的ももちろんあるでしょう いわゆる処分協賛での値引ですね
ソニーやアップルがこうならないのは、在庫と生産コントロールがうまいからで、ここは巨大企業のなせることかなと思います*4
Astell&Kernに関しては、そこまで流通在庫が飽和しているとも思えないし、そもそもそんなに台数が売れていないニッチな商品を急いで値引きする必要もないと私は思うのですが、結果的に値段が下がってしまいます
「需要」が減っているため市場原理が働いているのでしょう
その「需要」というのは、「より良い音楽体験をしたい」という需要ではなく
「優先感」を得るための需要が減ったからではないでしょうか
発売直後に入手して、写真を撮って、音質をSNSに書き込んで、メーカーや代理店がRTしてくれて、いろんな人に「いいね」してもらう
そういった優越感を得る「価値」が低減しているから、値引きされるのではないでしょうか
新製品が出てくると「いいね」されるのが新製品になってくるので、マニアの自尊心は損なわれ、旧製品を手放して新製品を手に入れていく…というサイクルです
「インディーズ時代からライブに行っていたのに、メジャーになってから悪くなった」とか言っているライブキッズと同じでような話です
紅白に出て多くの人に認知されたからと言ってWANIMAの『Are You Coming?』が名盤であるのは変わらないと思うんですが、「コアなファン」と言われる人たちが離れてしまうような感じで
「次にバズるバンド」とかいうのを探しちゃうわけです
コアな趣味層・マニアに向けてのニッチな商品だからこそ、その優越感に対する「価値」の下がり方が大きのではないでしょうか
100円のコーラを1000円で売る云々で御存知のバリューセリングですね
すっぱいぶどう
また「価値」の話からは遠ざかりますが、旧来からのマニアが批判を強める原因としてAstell&KernのDAPの新製品の発売当初価格がどんどん高くなっていることもあるでしょう
趣味に年間40万円という価格はそれほど高くないかもしれませんが(ここは人によって異なるので)、それでもおいそれと優越感を得るために40万円払うというのは厳しい…
勝間さんのブログにあった「認知的不協和の解消」がこれにあたるかもしれませんね
マニアこそ値下げを受け入れて、広めるきっかけにしてはどうか
市場経済だと「マニア層に向けての商売は広がらない」というのが一般的で
タイムマシンの代表がインタビューでこんなことを言っているのもそれが背景にあります
大井 e☆イヤホンは脱マニアを目指していますから、もっといろいろな人によい音を聴いてもらいたいと思っています。
株式会社というのは成長して継続していく必要がありますので、マニア層から脱却したいのは経営者としてもっともな判断だと思います
CESで発表されたAstell & ASPRや、ACTIVO CT10も同様に裾野を拡げるための戦略かなと感じています
マニア層にとっては、さっきのWANIMAの例のように少し寂しい想いはするのですが、ここはひとつ大きな度量で受け入れてはみませんか
「沼に引き入れる」という表現はあまり好きではないのですが
マニアは同好の士が増えた方が楽しいし、自分の好きな趣味を維持することにもつながるのではないかと思います
モデル末期のお求めやすくなった商品を、コチラ側へ招待するきっかけにするくらい気持ちになってはどうでしょうか
中華イヤホンなんかはこの2年くらいでそういう役割を担ってくれたので、業界としてはすごく良かったんじゃないかなとも感じます
安い方が沼の入り口には入りやすいんですよきっと
さて、Astell&Kernの値段が崩れるのがクソという意見に対する反駁は以上です
意見はいろいろあっていいので、私の意見が正だとは思っていないです
私は代理店 株式会社アユートの販促は好きじゃない
さて価格の話はここまでにして、次の話です
Astell&Kernの製品に関する負のオーラは国内代理店の株式会社アユートに向かっていることも多いのではないでしょうか
製品不具合が多い、個体差が大きい、製品サポートが悪いという意見もよく目にしますが、私は彼らのサポートを受けたことがないので、この件に関しては「サポートがんばってね」くらいしか意見がありません
限定・カラバリ商法
続いて批判される「限定・カラバリ商法」に関してです
限定商品やカラバリを追加するのはDAPに限った話ではないし「価値」を高めることなので、マニアにとっても良いことに思います
一方で、代理店のアユートの場合ちょっとやり方がアコギな気がしています
「AK70の限定Blueがちょっとだけ見つかりました!今なら買えます!」とSNSで煽った翌日に、「限定ホワイト予約開始!」とか、
先日のCHORDのPolyとMojoのセット販売も開いた口が塞がらない状態でした…
CHORD、MojoとPolyに64GB microSD付きでハイレゾプレーヤーになる10万円セット - AV Watch
マニア層に向けての商売なんですが、マニア層が嫌がることを平気でやるわけです
万人に受け入れられる販促はないですが、自社の顧客属性が観えていないんだろうなぁと
「明日新製品発表があるので、旧製品は処分特価にします!」なんて素直にやる必要はないし、先に書いた通り「価値」は変動しますので、過去に購入したユーザーまで救う必要はないと思います
が、SNSがおしゃべりすぎるんですよね
AK70の限定色の話で言えば、販売店のフジヤとかeイヤが「限定ブルー再入荷しました!あと5台限り!」とかやるなら良いんですが、販社であるアユートがSNSで買い煽るのが本当に下品だと思います
一時的な販促効果や合理性の是非ではなく、感情で「下品」だと思います
限定色・カラバリの後出し販売自体は悪いことではないけど、販促手法が悪いという立場です
というわけで、私はTwitterでアユートの営業のアカウントはミュートしています
提灯記事ってなんだ 広告記事のあり方
昨年論争になった「PR」をタイトルに付けるか否か問題もそう、電通問題もそう、ステルスマーケティングなんてもってのほか!という人が多いのではないでしょうか
そう思っているたくさんのマニアが、旧態依然としたオーディオの記事を「広告」だと認識しているのではないでしょうか
リンク先の大人気記事から田端氏の主張を引用すると
これからの広告は、欲望を喚起させるのでなく、欲望を充足させるものになるべきだ。そして欲望は、広告が一方的に作り出すのでなく、消費者が主体的に感じるべきものだ。
ということです
趣味娯楽の情報入手経路が雑誌だったころ、一部を除き雑誌は広告で収益を上げていて、それがWEB媒体に移行してからも広告によって成り立っているわけですが、いつの間にか広告は悪者になってしまったわけです
商品知識豊かな量販店の店員の説明は「買わされる」という防衛反応で拒否し、ソースも明らかではない素人のレビュー(このブログとかね)を信用してものを買うような世の中です
これに当てはめてAstell&KernのWEBの記事を振り返ってみましょう
先ずはAV Watchのこの記事(読まなくて良いですよ)
Astell&Kern、新ハイエンドプレーヤー「A&ultima SP1000」7月7日発売で499,980円 - AV Watch
ニュースリリースの記事なので、どこにもステルスマーケティング的要素ないと思います
続いて、オーディオライターが書いた記事です
【レビュー】最上を超える最上プレーヤー、Astell&Kern「A&ultima SP1000」を聴く - AV Watch
【レビュー】Astell&KernのフラグシップDAP「SP1000」 ー カッパー&ステンレスを比較試聴 (1/3) - PHILE WEB
まぁ、よくこんな風に書けるなと感心するくらい、ちゃんと良いところを書こうという意思が読み取れるし、値段高すぎ!的なことも書いてあるので、そこまで酷い記事とは思わないのですが、悪い意味で旧時代の雑誌的な記事内容なのかな
音の表現のところなんかは読んでてよくわからないです(それはこのブログ書いていてもいつも表現難しいなと思うところです)
毎回褒めちぎって前回よりめっちゃ良くなった!ということをアピールされるのが気に食わないのかな、広告主だもんね、悪く書けないもんね
続いてフジヤエービックのブログ、
ちゃんと比較されているし、販売店なんでもっとえげつない書き方しても良さそうなんですけど、こっちの方が情報サイトよりマニアが望んでいる内容に近い気がします
「解像度が上がった」「アンプ出力が上がったからヘッドホンがドライブしやすくなった」みたいな情報って、我々のような素人趣味ブログやSNSでも書ける内容なんですよ
にも関わらず、件の記事はそこの域を超えていない
我々素人では持っていない計測器を使ったりして、具体的な数字データとか出て…みたいな情報をマニアは求めているんじゃないかなと
制作秘話とか開発者にインタビューみたいな記事って好まれる傾向あるじゃないすか
ああいう個人ではできないことを読みたいんですよね
もっとも情報サイトも、マニアに向けて作っているわけではなくて、より多くの読者を獲得したいとアクションするでしょうから、そもそもそこがズレているのかもしれませんね
「提灯記事」という批判に関して、ストレスマーケティングをしているわけではないので提灯記事ではありません
いわゆる中華イヤホンとかAnkerとかのAmazonレビューやTwitterの感想なんかの方がよっぽどマズい、という感想です
ポータブルオーディオの趣味ジャンルが長く続きますように
もともとニッチなジャンルであるポータブルオーディオの世界で、これだけ一生懸命新製品を作っているメーカーなのに、Astell&KernのDAPは日本ではあんなちょっとしか売れていないんですよ
声の大きなマニアが言っている批判に同調して、よってたかっていじめていないで事業が存続できるように応援してあげてもいいんじゃないかなと思うのです
この記事中に書いてあった内容引用します
ニコンD850で蘇ったワクワク感【iNTERNET magazine Reboot】 - INTERNET Watch
デジタル化の波にもまれながらも、いまでも世界市場をリードする日本カメラ業界。敬服したい。たとえばオーディオ業界はこの高みには到達できず、趣味としての市場を失ってしまったのではないかと思えるし、自分が生業にしている出版業界もこの領域にはまだ到達できていない。さらに急を告げているのは車業界だろう。他産業も見倣うこと多し、ではないだろうか。
私は、かつて「ネガフィルムマニア」だったのですが、銀塩フィルムが消えてなくなって値段が倍になるまであっという間でした
有線イヤホンなんてあっという間になくなりますよきっと
総じてマニア層が好んで使ってきたAstell&Kernだけど、みんな大好きイノベーター理論で言う所の「キャズム」を越えようとしているところで、旧来の顧客像とギャップが生まれているのかなぁというのがぼんやりした感想です
自分たちが好きなものが続くように、メーカーや代理店を甘やかす必要はないですが、むやみに叩かなくても良いんじゃないかなというわけです
狭い世界なのに狭い知識で憶測で悪評を垂れ流すのはかっこ悪いです
とはいえあのアユートのSNSは苦手ですけどね
などと長文を書いてきたのですが、まぁ本音ではAstell&Kernが叩かれようがなんだろうがどうでもいいと思っています
この記事もAstell&Kernやアユートに頼まれたわけでもなく適当に書いたものですので提灯記事ではありません
今後もし協賛いただけるようでしたら、この記事のタイトルに思いっきり【PR】ってつけます
その際は是非、ご連絡ください