この前、写真が趣味って人と呑んでいて
「好きな写真家いる?」って話になった時「写真家って篠山紀信くらいしか知らない」くらい言われてちょっと驚きました
音楽鑑賞が趣味で好きなアーティストがいないとか、映画鑑賞が趣味の人で好きな映画監督いないみたいな話な気もするけど、楽しみ方なんて人それぞれだからどうでもいいですね、ハイ
10年ちょっと前くらいに毎日写真撮っていた頃、フィルムで撮ってたんでお金がバカスカなくなっていくわけです
ヨドバシでポートラを何箱も黄色いカゴに突っ込んでレジに向かって、毎回これ炊飯器買って帰れるよねみたいな金額をコダックに貢いでいました
しかし自分で撮るより写真家たちが作った写真集を1冊買うほうが安いし、刺激を受けて世界が広がる!とも考えていて、この時期は写真集もたくさん買っていました
リトルモアから出たら全部買え!みたいな雰囲気すらありました
そんな中先日、東京都写真美術館の『総合開館20周年記念 TOPコレクション 「いま、ここにいる」 平成をスクロールする 春期』を観に行ったら、その当時の写真家のその当時の写真がいっぱい展示してあって、家に帰って写真集掘り起こして眺めたりしてお酒飲みました
今井智己さんの『真昼』 久しぶりに観ましたがすごく良かったです
そんなわけで、せっかく1億総カメラマンな時代ですから、画像ばっか撮ってないで、プロの写真家の作品を観るのも良いですよということで
今回はその当時に買って、今も大事にしている写真家の写真集をおすすめする話です
1・佐内正史『いきている』
先ずはなんといっても佐内さんの『生きている』でしょう
中村一義やくるりのジャケット、ポカリスエットのCMなんかでもおなじみ
前述の「いま、ここにいる」の写真展でも展示されていた佐内さんの代表作
当時もプレミアがついていてなかなか手に入れられなかったのですが、初めて手にして写真を観た時の衝撃が忘れられません
こんな写真を撮れるのかと、あまりにも打ちひしがれてしまい3日くらいカメラを触れなくなったのを覚えています
当時は「日常写真」というキワードが流行りました
独りでやっとけ、他人に見せんなって感じのキーワードですね
一方で佐内さんの写真は、日常にある風景と思わせておいて、日常とは関係なく
写真がもつ過去を残すといった機能を捨て去ってそこに「いる」という感じ
佐内さんの写真集はたくさん持っていますが、「生きている」が1番の宝物です
2・野口里佳『砂漠で』
数々の写真賞を総なめにしてきた野口里佳さんといえば『鳥を見る』かなと思いますが
あえてマッチアンドカンパニーで創られた『砂漠で』をおすすめに
私たちは「曖昧なもの」みたいな得体の知れない「何か」を掴み取ろうとしている感覚に溺れていた世代なんですが、野口里佳さんの写真って、そんな地上でウネウネしている私を上から手を伸ばしてくれるような「光明」みたいな感じがするんですよ
多分、ワンダと巨像とか、switchのゼルダとかああいうの好きな人はきっと好きだと思います
3・若木信吾『TIME AND PORTRAITs』
ポートレートだとやっぱり若木信吾さんが好きだなぁと改めておもった1冊
『Takuji』や『young tree』など、年配の方を取らせたら若木信吾さんという感じ
結構タレントさんの写真集も撮っているし、最近だとパナソニックのミラーレスのCMで4Kフォト撮っていたから知っている人も多いはず
ポートレートって内面を撮る行為なので、被写体との関係性だったり距離感がものすごく出るジャンルだと思うんですけど、若木さんの写真はどれも嫌味やまとわりつく感情があまりなくて「考察」しようという意識が働いてこないのがすごく好きです
4・長野陽一『島々』
『シマノホホエミ』につづいて刊行された、日本の離島で暮らす人々を撮った写真集
我が家に遊びに来た友人が写真集棚を漁った後に「どれが良かった?」と訊くと、「長野さんの『島々』が良かった」と返されるケースが非常に多いです
離島の風俗を記録として残すわけでもないし、島に住む人々のポートレートってわけでもなくて
「写真を撮るのにカメラは◯◯がおすすめ」「単焦点レンズが云々」「キレイに撮れる方法10選!」みたいな超くだらない話はすっとばして、写真家は偶然を捕まえる仕事だと思っているのですが、
長野さんが訪れた島々ではたくさんの偶然を引き寄せられたんだろうなと感じる1冊です
5・市橋織江『PARIS』
オリンパスのデジカメに「アートフィルター」って機能があって、あれ個人的には大嫌いなんですけど
いわゆる「森山大道モード」「蜷川実花モード」みたいな写真家たちの特徴ある写真っぽく加工するというフィルターなんですけど
その中に「デイドリーム」ってのがあって、あれ世の中では「川内倫子モード」と解釈されていると思うんですが、私はアレ「市橋織江モード」じゃないかと考えています
ポップじゃないんだけど、ハイキーで儚くて(ハイキーだから儚いとか超絶安易ですよね)
でも儚いかと思いきや、ちょっとエネルギッシュなところもあって
市橋織江さんというと女優さんやモデルさんを撮った写真も好きなのですが、この『PARIS』にならぶフランスの空もすごく浮遊感があって大好きです
さて、ここから先は映画のフィルムブックを紹介します
当時、邦画のスチールに写真家が参加していることが多く、映画の世界観と相まって素晴らしい作品が生まれていました
6・『FILM BOOK 青い車』大森克己
ARATA 麻生久美子 宮崎あおいの3人を写した20枚位のスチールが納められているんですが
ちょっと言葉に出来ないくらい素晴らしい「青」なんですよ
A6くらいのちっさいサイズの本なのが惜しい、本当に惜しい
私、もうホントこのブックに載っている写真たち好きすぎて、このプリント売ってもらえないかなぁといつまでも願っている、本当にステキな写真が納められています
7・川内倫子『blue』
川内倫子さんと言えば名著が数多あるわけですが、あえてこちらをおすすめに
邦画って漫画原作多いなぁと思いつつ、市川実日子と小西真奈美の百合映画『blue』の公式写真集がコレです
市川さんがすごいのか川内さんがすごいのか、よくわからんけど合わさるとすごい
市川さんが小西さんお手をとって駆け出していくカットがあるんですが、初見から今にいたるまで13年間ずっと覚えている素晴らしい写真だと思います
「透明感」って言葉が嫌いです
透明感を出したければ、透明なプラスチックにでもプリントして、壁じゃない所に浮かして展示でもすればいいのではないかと
ともあれ川内倫子さんの写真って生と死とか透明感とかをもっとブヨブヨした得体の知れない感じで
あのアルギン酸を使って水を手で持てるようにするやつ、あれみたいな感じです
8・黒田光一『私立探偵 濱マイク』
黒田光一さんは、いち早くフィルムからデジタルに移行して、新しい表現に取り組んだ方と認識しています
2003年の作品です
今現在の超高性能カメラを使っていて、うまく撮れないとか言っちゃう人は、黒田光一さんの写真観て反省すると良いと思います
当時めっちゃ流行った「濱マイク」ですが、その世界観以上の本当にかっこいいギラギラした写真集です
『ピンポン』や『青い春』等、当時大好きだった映画のスチールは黒田光一さんでした
NUMBER GIRLやTHEE MICHELLE GUN ELEPHANT好きな人は絶対好きな写真家だと思います
手にとって良かったら写真集を買おう!
昨今はAmazonとかで貴重本も見つかる時代ですが、写真集が増刷されることはめったにないので、本屋で手にとって「いいな」と思った時に買わないと、
後々手に入れられなくなってしまうことも
ちょっと高いな…と思うかもしれませんが、こうして手元にある写真集が一生の宝ものになることもあります
10連ガチャを回すよりは、1冊の写真集を手元に置いたほうが、いい写真家と出会い、自身の写真の世界も広がるかもしれませんよ
1億総カメラマンのこの時代だからこそ「写真家」の作品をもっと観てみませんか
うだるような暑さの部屋で記事を書きながら、大森克己さんの『サナヨラ』の表紙を観て、ガリガリくんを買いに行こうと思った夏の日でした

- 作者: 写真:若木信吾,添付テキスト:後藤繁雄,編集:後藤繁雄,アートディレクション:森本千絵,デザイン:甲斐千恵,添付テキスト英訳:OKO
- 出版社/メーカー: アートビートパブリッシャーズ
- 発売日: 2008/12/15
- メディア: ハードカバー
- クリック: 12回
- この商品を含むブログ (1件) を見る